2014年フォーラムはナイジェリア,UAE,オランダ,ノルウェー,米国,フランス,スイス,英国,中国,日本,インドネシアなど世界中から選抜された50人の参加者が米国スタンフォード大学に集まりました.
年齢, 文化, 専門分野等, 多様な背景を有する参加者達は,互いの国,文化,歴史ついて共有し,好きな音楽や映画といった,より個人的な話題を取り上げる様子もフォーラム中に多々見られました.参加者に多様性からの連携を学んでもらうためにも, 各グループには必ず米国,ヨーロッパ,中国,日本の各支部からの学生が参加しました. 異なる文化圏のチームメイトとの共同作業に戸惑う参加者も多かったものの,STeLAならではの経験を提供できたと考えております.
2014年度のテーマ『Health and Bioethics』に関しては,Manu PrakashとHank GreelyにKeynoteスピーカーとして参加していただきました.Prakash様にはコストを1ドルに抑えた顕微鏡の開発について紹介していただき,発展途上国における教育の重要性についても講演していただきました.Greely様にはバイオテクノロジーと生命倫理について講演していただき,発展し続ける技術とどのように付き合っていくのかを考える素晴らしい機会となりました.
リーダーシップセッションではリーダシップ理論,チームワーク,人間関係についての講義を通じて,他者の意見の理解と尊重を学びました.また、このセッションでは本フォーラムのテーマに関連した教育ボードゲームの製作をグループとして行うことで,学んだ理論をより相互理解が必要とされる環境で実践する場を設けました.
サブテーマ
本フォーラムのテーマは遺伝子操作,健康情報学,個人ゲノミクス,倹約的イノベーションの4つのサブテーマに分かれています.テーマ別セッションでは各サブテーマにまつわる問題に触れ,STeLAが課題を課す前に,簡単な説明がありました.
遺伝子操作
”大いなる自然に干渉しようとしているだけではない.私は,自然もそれを望んでいるのだと思う.”―Williard Gaylin,精神病医,生命倫理学者
工業, 農業のみならず, 様々な目的で世界中の研究室で生命の操作が行われています. ウイルスはバイオ燃料の製造のために,マウスは医薬研究目的に,そしてジャガイモは害虫に対する耐性を持たせるために遺伝子が操作されています.また、昨今ではトランスヒューマニズムの分野で人間の遺伝子操作さえ行われています.遺伝子操作によって生み出された生物が社会に絶大な恩恵をもたらす一方で,生命倫理や公共政策の法整備等の問題があります.遺伝子組み換え作物が飢餓の解決に繋がるにも関わらず,生命倫理とのジレンマにより未だに商業化されていない現状は, その一例でしょう.
このセッションでは研究室の中の技術と現実世界における意識との乖離を理解し,その2つを繋げることを目的としました.『この技術の生命倫理問題とはなんだろうか.科学技術の倫理的な限界点は何か』といった議論が交わされました.
健康情報学
今後の医療改善には健康情報学は不可欠なものとなるでしょう.カルテをはじめとした医療情報は紙媒体とデジタルが混在しており,診療所,個人開業医,病院がそれぞれ異なるシステムで管理しています.この不統合が効率性を大きく損なう要因だとして、多くの企業はソフトウェア開発などによりこれを統一しようと考えています. 生命医療工学に携わるエンジニア達は,医療と環境データが正確に効率よく手に入るグローバルなシステムを実現しようとしています.これによって,個人個人にあった医療を提供したり,パンデミックのような世界規模での非常事態に備えたり,化学・生物兵器の戦争に備えたりすることが可能になります.
このセッションでは患者に医療を提供するゲームライクなシミュレーションを行いました.予想外の事態の変化もセッションに組み込まれており,リーダーシップワークショップで学んだ内容の実践が求められるセッションが設計されました.
個人ゲノミクス
個人ゲノミクスは現在活発に発展している分野の一つであり,今後は個人ゲノムを安価で正確に解析することが可能になるでしょう.幅広い効能を持つ薬を異なる患者に処方している現在のシステムに対し,遺伝子情報のさらなる理解が進むことで,患者一人一人の病状にピンポイントで効く薬の開発が現実のものになります. 2000年初期は40,000個ある人間の遺伝子の解析に1億ドルかかっていたものが, 2014年では1000ドル程度が標準的な価格になるほど, この10年だけでも目覚ましい発展を遂げています.個人ゲノミクスのさらなる発展は多発性嚢胞腎や嚢胞性線維症に代表される遺伝子病の解明と予防につながるでしょう.一方,遺伝子解析を行う企業の中には, クライアントが将来かかる病気をゲノム解析により予知することが可能としており,話題を呼んでいます.
このセッションでは『親は子の形質に関する遺伝情報について知るべきだろうか』,『子供を作るという過程において,親の遺伝子をランダムに配列するより人工的な遺伝操作を望むようになるのだろうか』,『自分の生き方を遺伝子の情報に基づいて決めるのは正しいのだろうか』といった問題について個人・グループで深く考えるようデザインされていました.
倹約的イノベーション
倹約的イノベーションとは,先進技術を用いず,その環境に存在するもので新しい発明を行うことです.アフリカではビールの醸造を大麦の代わりにソルガムで代用したり,フィリピンでは漂白剤と水を用いた明かりを発明してたり, これらは倹約的イノベーションの好例です.倹約的イノベーションは発展途上国では革命的なコンセプトですが,先進国でも持続可能な社会の実現のために重要です.
このセッションでは倹約的イノベーションが医療にどのように適用できるかについて集中し,参加者には世界のどこでも使えるような素晴らしいアイデアのブレインストーミングを行いました.ブレインストーミングでは, 数々の斬新な発想が生まれていました.
企業訪問: Genetech サンフランシスコキャンパス
Genetech Inc.とはベンチャーキャピタリストのRober A. Swansonと遺伝子組換のパイオニアである生化学者のDr. Herbert Boyerによって1976年に起業されました.1973年にBoyerと同僚のStanley Norman Cohenが制限酵素を用いることで特定の遺伝子の破片をまるでハサミのように切り取り,同じように切り取られたプラスミドベクターに導入できることを実証しました.
その後Cohenは一旦アカデミアの世界に戻ったものの,SwansonはBoyerとコンタクトを取り,起業の話を持ち掛け, 1976年にGenetechを起業するに至りました.Boyerは同僚とともに1977年に人間の遺伝子をバクテリアに導入することでホルモンの一種であるソマトスタチンの製造に成功し、後に1978年にインスリンの合成にも成功しました.現在Genetechは市場に多数のバイオ製品をリリースし,有望な開発陣を持つバイオテクノロジー業界のリーディングカンパニーです.
Genetechは2009年にスイスの世界的製薬・ヘルスケアカンパニーであるRoche Groupの一員になりました.合併契約により,RocheとGenetechは米国での製薬業務の提携を行いました.現在,Genetechサンフランシスコキャンパスは米国内におけるRocheの製薬業務のHQとなっています.企業訪問では,参加者は細胞培養と浄化を含む製薬プロセスにかかわるプラントの見学をしました.